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「守ることが、最も攻めている」 リシュモン創業者 ヨハン・ルパートの哲学に学ぶキャリア論

「守ることが、最も攻めている」 リシュモン創業者 ヨハン・ルパートの哲学に学ぶキャリア論

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ラグジュアリー界の巨星たちが次々と話題をさらうなか、ヨハン・ルパート(Johann Rupert)は異彩を放っている。リシュモン(Richemont)という巨大コングロマリットのトップでありながら、彼は華やかな舞台にも、派手な改革にも背を向けてきた。
それでも、いや、だからこそリシュモンのブランド群は揺るぎない輝きを放っている。「カルティエ(Cartier)」「IWC(International Watch Company)」「ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)」など、いずれもクラフツマンシップと伝統を大切にするブランドばかりだ。
短期的な成果よりも、熟成という時間を信じる。流行を追わず、ブランド本来の価値を静かに育てる。その“守る経営”こそが、リシュモンのスタイルであり、ルパートの信念。
アルノーがLVMHを「動的なラグジュアリー」へ導いたとすれば、ルパートはその対極にある「静的なラグジュアリー」を体現している。焦らず、騒がず、しかし確実に。ルパートの手腕は、もう一つのラグジュアリーの成功のかたちを静かに示している。

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「守りの経営」は、攻めのスピンオフから始まる

ヨハン・ルパートのキャリアは、富と地位を約束された環境から始まった。父アントン・ルパートは南アフリカの実業界で名を馳せた人物であり、タバコ事業を核に巨大企業グループを築いていた。

だが息子のヨハンは、父の道をただなぞることを選ばない。大学で経済を学び、ウォール街での経験を積んだのち、1984年に父の企業に加わる。だがそれは、あくまで自身の野心を実現するための助走だった。

1988年、家業と言ってもいいタバコ部門からスピンオフする形で誕生したのが、現在のリシュモンである。ヨハンの狙いは明確だった。ブランド価値という無形資産にこそ、次の時代の競争力があると見抜いていたのだ。

リシュモンの象徴的存在となったのが「カルティエ」である。その縁は父アントンの時代に遡り、1960年代にアメリカのカルティエ株20%を取得したことから始まる。この接点を活かし、ヨハンは1993年に「カルティエ」をリシュモンの中核ブランドとして完全に取り込み、グループの飛躍的成長に繋げた。

以降も「ヴァン クリーフ&アーペル」(Van Cleef & Arpels)」「パネライ(Panerai)」「ジャガー・ルクルト(Jaeger-LeCoultre)」など、卓越した職人技と歴史を誇る名門ブランドを静かに迎え入れてきた。

アルノーが次々と話題を呼ぶブランド構築を仕掛け、パリのランウェイを騒がせるのに対し、ヨハンのブランド育成術は、まるでワインセラーのよう。時間をかけて熟成させ、真価を引き出す。その姿勢は地味だが、一貫している。リシュモンのブランド群にはすべて、ヨハンの「守る哲学」が静かに息づいている。

次の章からは、ヨハン・ルパートの経営哲学が反映された代表的な3ブランドを紹介したい。一つは先ほども言及した、永続する価値を築き上げる「カルティエ」。そして次に触れるのは、ニッチマーケットを攻める戦略が、大きな価値を生み出した「IWC」と「ピアジェ(Piaget)」である。それぞれのブランドの歴史と戦略からは、リシュモンに共通する美学と思想が見えてくる。

ヨハン・ルパート(Photo:Richemont公式サイト)

積み重ねた時間が、世代を超えて輝く価値を生む「カルティエ」

1847年、パリで誕生した「カルティエ」は、170年以上にわたりジュエリーと時計の世界で輝き続けてきた。王侯貴族から現代のセレブリティまでも魅了し、そのデザインには一貫して時代を超える美が貫かれている。

1969年にニューヨークで生まれた「LOVE」ブレスレットは、カルティエを象徴するプロダクトの一つ。専用ドライバーを使ってビスで固定するという、ジュエリーとしては異例の構造を持つ。自分ひとりでは着けられず、愛する人の手を借りる必要があるプロダクトストーリーは、まるで愛の証明を儀式に変えるかのような設計だ。

着想の源には、古代の戦士が妻の貞操を守るために使用した「貞操帯」があるという。ジュエリーが「見た目の美しさ」だけを追求するのが常識だった時代にあって、このブレスレットには明らかに異なる発想が込められていた。それは、感情をデザインに宿らせようとする意志である。

愛という、目に見えず、しかし誰もが大切に思うものを、どうすれば「かたち」にできるのか?

カルティエはこの難題に、「外れないブレスレット」という逆説的な方法で挑んだ。「愛を閉じ込める」。このコンセプトに込められたのは「愛を繋ぎとめたい」という願いと、「失いたくない」という不安。人間の複雑な感情を、ジュエリーが引き受けた革新的なデザインと言えよう。

美しい楕円形を描くこのブレスレットは、ただのラグジュアリーではない。「愛とは何か?」という問いを、静かに、けれど強く投げかけてくる。だからこそ、この声なき声を滲ませるプロダクトは、時代や世代を超えて愛され続ける。誰もが、その囁きに耳を傾ける。「カルティエ」は、愛という不確かな感情に、確かなかたちを与えることで、ジュエリーに永続する価値を宿したのだ。

また、「タンク」ウォッチも「カルティエ」の象徴として知られるプロダクトだ。この時計が、第一次世界大戦時の戦車からインスピレーションを得たエピソードはあまりに有名。特徴的なレクタンギュラーシルエットは、シンプルでありふれた形状が、逆にピュアな美しさを主張する。

長方形という形は、誰もが一度は学び、すぐに思い浮かべるシンプルでありふれた形。しかし、そのフォルムが、世界最高峰のジュエリーブランドのアイコンとなった事実には、何かしらの意味があるように感じる。

私たちはしばしば、「これを学ぶことに意味があるのか?」と疑問を持ち、「覚えても無駄だ」と否定することがある。だが、タンクウォッチが教えてくれるのは、ありふれたものの中にこそ、まだ見ぬ価値が潜んでいるということだ。無駄に思える学びも、後に力を持つかもしれない。長方形という形は、無駄を削ぎ落とした秩序の象徴であり、安定と力強さを体現している。タンクウォッチは時間という無形のものを長方形という「形」にすることで、100年以上も愛されてきた。シンプルだからこそ、普遍的であり続ける。

こうした背景を知ると、「カルティエ」がいかに真摯にものづくりに向き合ってきたかが見えてくる。 一夜にして生まれるアイコンなど、存在しない。世界中に愛され、世紀を越えて継承されるプロダクトの背後には、果てしない時間と、試行錯誤の積み重ねがある。

これは私たちにも言えるのではないだろうか。キャリアが思うように進まないときこそ、自分の武器を磨き続ける時間なのかもしれない。 そして、チャンスはいつも、予定調和ではやってこない。 戦時中の戦車という、誰も想像しなかったモチーフが、のちにタンクウォッチを生んだように。

LOVE bracelet(Photo:Cartier公式サイト)

Tank(Photo:Cartier公式サイト)

空のために、美のために 「IWC」と「ピアジェ」に学ぶ自分だけの戦い方

スイスの精密技術と実用性。そのふたつの美点を、パイロットというニッチな領域に特化して開花させたのが「IWC」だ。なかでも注目すべきは、航空時計の代名詞とも言える「パイロット・ウォッチ」コレクションである。

20世紀初頭、ライト兄弟が飛行に成功したことを皮切りに、空の世界は加速度的な進化を遂げる。飛距離は伸び、飛行高度も上がり、夜間や悪天候下でのフライトも珍しくなくなっていった。そうした時代のパイロットにとって、「正確な時間を知ること」は命を守る手段に等しかった。

ところが当時、時間を知る手段といえば懐中時計だった。操縦桿を握ったまま片手で懐中時計を取り出すのは危険極まりない。さらに、飛行中の温度変化や振動、磁気といった過酷な環境が、時計の精度を容易に狂わせる。だからこそ「IWC」は考えた。「空を飛ぶ人のための時計をつくろう」と。

1936年、「IWC」はついに「スペシャル・パイロット・ウォッチ」を完成させる。マイナス40度からプラス40度までの温度変化に耐え、耐磁性も兼ね備えた本格的な航空時計が発表された。無骨で、実直で、飾り気はない。だが、視認性を最優先にデザインされたシンプルな文字盤は、やがてパイロットだけでなく、一般の人々の心をも掴んでいく。

この歴史が語るのは、「ニッチに徹することが、やがてメインストリームになる」という可能性だ。深く狭いターゲットに向き合うことが、結果的に広い共感を生む。オリジナリティとは、他と同じ場所に立っていては決して得られない。

それは、企業と個人もきっと変わらない。誰もが目指す王道ではなく、あえて傍流に自社や自分の強みを投じる。はじめは誰も見向きもしない道でも、続けるうちに、それはオリジナリティへと変わっていく。

空のための時計を極めた「IWC」に対し、「ピアジェ」は美のための時計を追い求めてきた。

1874年に創業した「ピアジェ」は、実用性を重視する時計と装飾性を重んじるジュエリーという、本来は交わることのないふたつの領域を、あえて融合させようと試みたブランドである。ただ「華やかに飾る」のではなく、そこに潜む職人技の精緻さが、静かに語りかけてくる。「ラグジュアリーとは、誰にも真似できない技術の結晶である」と。

たとえば「アルティプラノ」。アンデス山脈に広がる高原地帯から名付けられたモデルは、極限の薄さを実現しながら、見た目の繊細さとは裏腹に驚くほどの技術力が宿っている。ムーブメント、ケース、針など、時計を構成するすべての要素を一体化して設計するという離れ業は、単なる「薄型化」を超えた哲学と革新の結晶と言える。

そして、その薄さがもたらす着用感はまるで空気のよう。だが、漂う気品は空気よりもはるかに重い。それを支えているのが、ジュエリーを彷彿させる細部へのこだわり。細く繊細なベゼル、余白を活かした文字盤、ホワイトゴールドやピンクゴールドといった素材の選定。ミニマルでありながら、優雅。シンプルでありながら、豊か。

ピアジェの時計は、ただ時間を告げる機械ではない。人が時間を気にする瞬間には、たいてい期待がある。大切な誰かとの約束、人生の転機となる出会い。そうした瞬間を、ただの「時刻」にとどめず、鮮やかな体験へと引き上げ、「機械」を「機会」に変える。それが「ピアジェ」の思想であり、美学だ。

「ピアジェ」が選んだのは、「誰もが主戦場にしたがらない場所」だった。時計なのにジュエリー、ジュエリーなのに時計。どちらの領域からも異端と見られがちなポジションに、「ピアジェ」は王国を築いたのだ。

「主戦場を、他人に決めさせない」

この哲学こそが、「ピアジェ」の核である。

周囲に評価されやすい道ではなく、自分にしか歩けない道を選ぶ。勇気ある、その選択こそが、やがて新しい価値を生む。

Pilot Watches(Photo:IWC公式サイト)

Altiplano(Photo:PIAGET公式サイト)

守ることが、最も攻めている ルパートの哲学が教えるキャリア論

「カルティエ」「IWC」「ピアジェ」は、いずれも世界的な名声を誇るラグジュアリーブランドであると同時に、リシュモンが掲げる哲学のもと、いわゆるスターデザイナーに頼らず、独自の道を静かに歩んできた。華やかな改革やメディアを巻き込んだ仕掛けではなく、ブランドがもともと持っていた本質的な価値を深く掘り下げ、育てていく。その姿勢の中心にいるのが、リシュモンを率いるヨハン・ルパートである。

ルパートの経営は、ブランドの「個性を守る」ことに徹している。時代のトレンドに振り回されることなく、それぞれのブランドが築いてきた歴史や哲学、そして蓄積された技術に目を向け、ブランドの価値をさらに磨き上げていく。「カルティエ」は「愛」というテーマにこだわることで、何十年にもわたって人々に憧れを抱かせるジュエリーを生み出し、「IWC」と「ピアジェ」は自らの得意分野を徹底的に極めることで、ニッチでありながらも確固たる地位を築いてきた。

これらのブランドに共通するのは、焦らず、騒がず、時間を味方につけている点だ。結果をすぐに求めるのではなく、唯一無二の存在になることを目指す。そのためには、自らの強みを信じ、掘り下げていく粘り強さが必要になる。時間をかけて価値を熟成させるというリシュモンの戦略は、現代においてむしろ新鮮であり、力強い。

そしてこの「守る」姿勢は、私たち一人ひとりのキャリアにも通じる。現代社会は、スピードと成果を至上とし、常に「次のステップ」を求められる。昇進、転職、SNSでの評価……そんなプレッシャーの中で、立ち止まることはまるで「負け」のように映るかもしれない。

だが、ルパートはその逆を選んだ。派手に攻めるのではなく、価値あるものを丁寧に守り育てる。そのためには、今自分がどこに立っているのか、自分にとって本当に意味のあるものは何かを問い直し、その「軸」をぶらさずに進む覚悟がいる。短期的な評価には結びつかないかもしれないが、やがてその積み重ねが他にはない存在感を生み出す。

だからこそ、「足踏みしている」と感じる瞬間こそ、自分の根を深く張る時間なのだと捉えることもできる。派手さがなくても、揺るぎない信念と継続する力が、自分だけの輝きを形づくる。ルパートが築いたブランドたちのように、静かでも確かな歩みが、やがて大きな実を結ぶ日が来る。

ルパートの経営哲学にあるのは、「即効性のない成功」のあり方。そしてそれは、慌ただしく変化する時代を生きる私たちにとって、実はもっとも必要な考え方なのかもしれない。ルパートの思想や経営哲学に共感し、リシュモングループで働くことに興味を持った方は、ぜひこちらから求人情報をご覧ください。

著者プロフィール:新井茂晃 /ファッションライター
2016年に「ファッションを読む」をコンセプトにした「AFFECTUS(アフェクトゥス)」をスタート。自身のウェブサイトやSNSを中心にファッションテキスト、展示会やショーの取材レポートを発表。「STUDIO VOICE」、「TOKION」、「流行通信」、「装苑」、「QUI」、「FASHONSNAP」、「WWDJAPAN」、「SSENSE」などでも執筆する。

最終更新日:

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